先日の記事に続き、今回はスプリンターのダッシュ力(パワー)を探ってみました。
速さゆえに
かつて芝1200を1:06.5の日本レコードで走破したアグネスワールドは、その溢れるスピードに恵まれた一方でコーナーワークが不得意だと言われました。
日本国内のG1を勝つことはありませんでしたが、海外の直線レースではその類まれなるスピードとパワーを存分に発揮し
- 1999年アベイ・ド・ロンシャン賞 Prix de l'Abbaye de Longchamp(仏G1・芝直線1000)…1着
- 2000年キングズスタンドステークスKing's Stand Stakes(英G2・芝直線1000)…2着
- 2000年ジュライカップJuly Cup Stakes(英G1・芝直線1200)…1着
と、大活躍しました。
特にJuly Cup Stakesは、優勝馬の多くがヨーロッパのチャンピオンスプリンター(カルティエ賞の最優秀スプリンター)に認められるような非常に価値の高い短距離戦でした。
※初代王者に19世紀のイギリス最強スプリンターと名高いスプリングフィールドSpringfieldがいます。
さらに、そのSpringfieldを母父として、July Cup Stakesを3連覇した20世紀の名スプリンターサンドリッジ Sundridgeなど。Sundridgeはスピードの源として名高いレディジョセフィン Lady Josephine の父でもあります。
そのアグネスワールドが引退した翌年。
新潟競馬場のコース改修が行われた際に、中央競馬で唯一となる芝直線重賞競走「アイビスサマーダッシュ」が始まりました。2001年のことです。
53.7秒
これまでアイビスサマーダッシュで優勝した馬は
モズメイメイ、オールアットワンス、ビリーバー、ジョーカナチャン、ライオンボス、ダイメイプリンセス、ラインミーティア、ベルカント、セイコーライコウ、ハクサンムーン、パドトロワ、エーシンヴァーゴウ、ケイティラヴ、カノヤザクラ、サンアディユ、サチノスイーティー、テイエムチュラサン、カルストンライトオ、イルバチオ、メジロダーリング。
快速馬といえば、新潟芝1000(直線)を、53.7秒で駆け抜けたカルストンライトオがいます。
これは2024年現在でも破られていない日本レコードタイムで、ラスト1Fは12.1秒かかっていますが、9.8秒、9.6秒と9秒台のラップを2回記録したのはカルストンライトオだけです。当時の開催が連続開催の6週目だったことを考えれば、相当な走りだったことでしょう。
12.0 - 9.8 - 10.2 - 9.6 - 12.1
12.0 - 21.8 - 32.0 - 41.6 - 53.7
スプリントで躍動する血統の共通点
カルストンライトオ
父ウォーニング Warning
母オオシマルチア
母父クリスタルグリッターズ Crystal Glitters
カルストンライトオは、In Reality(War Relic3×3)の直系、3代母ネバージョオーがWar Admiral4×3なので、がっしりとしたパワーが持ち味だったと思うのです。そのパワーに足してNasrullahのはやさがあった。そういう見方もできると思います。
新潟千直はダート短距離を走っていた馬も馬券的には狙えるわけですが、それは「ダートスプリント戦でダッシュできるパワー」を狙うことができるということだと思います。
カルストンライトオの血統表をこまかくして考えてみます。
本馬は、Native Dancer5×4
父 Warningは、War Relic5・5、Bull Lea5×5
母オオシマルチアは、Nasrullah4・5×5
母父クリスタルグリッターズ は、Nasrullah3×4、Bull Dog5×4・5
父と母をみてみると、Tom Fool≒Spring Run、Royal Charger≒Nasrullah、War RelicとWar Admiral(Man o'War)、そして5代血統表では見えませんが随所でBull Dog≒Sir GallahadとDominoとSundridgeという部分が似ています。
まず、Bull Dog≒Sir GallahadとDominoとSundridgeの組み合わせはRomanと似ています。
そして、父 Warningの母父がRobertoなので、Robertoの母Bramalea≒Mr. Prospectorの母Gold Digger(Nashua・Bull Dog・Blue Larkspur)
このBlue LarkspurというのはDominoとSundridgeですから、ここでもBull Dog(≒Sir Gallahad)とDominoとSundridgeが共通しています
Robertoは、父Hail to Reason、父父Turn-toなので、Turn-toの母父Admiral Drake≒Roman(Plucky Liege・Sunstar・Maid of the Mist)も成り立つでしょう
父 Warningの母母父がRaise a Nativeなので、すべてを足すと
-
Bramalea≒※Gold Digger
-
Bull Dog≒Sir GallahadとDominoとSundridgeの組み合わせ≒※Roman
そうすると、Seeking the Goldの大部分をおさえることになります。
最高マイラーに土をつけた父Seeking the Goldのワンツー
Seeking the Goldは、Dwyer Stakes(米G1・D1800)、Super Derby(米G1・D2000)…1着。Haskell Stakes(米G1・D1800)、Travers Stakes(米G1・D2000)、Breeders' Cup Classic(米G1・D2000)、Metropolitan Handicap(米G1・D1600)…2着。マイルから中距離で活躍した馬でした。
日本では、シーキングザパール、マイネルラヴ、ゴールドティアラ、シーキングザベスト、ロードアルティマ、レディブロンドなどの父にあたります。
自身はマイル以上の距離2000前後でも強い走りでしたが、仔らのほとんどはマイル以下の成績が優れており、牝馬の方が活躍していました。
3代以内にSeeking the Goldをもつ馬を調べると、牡馬はダート1700~2000と芝1000、牝馬は芝1000~1500の成績が良いです。
シーキングザパールは日本調教馬として初めて海外G1制覇をした馬ですが、そのときに勝ったレースはモーリス・ド・ゲスト賞Prix Maurice de Gheest(仏G1・芝1300)
同じ父Seeking the Goldのマイネルラヴとワンツーを決めたレースは、最高のマイラータイキシャトルの引退レースになったスプリンターズS(芝1200)
レイデオロの母母レディブロンドは、体質の関係で遅めデビューした馬で、競争生活はわずか4か月。未出走の5歳牝馬から芝1200で5連勝し、ラストランはスプリンターズSの4着。
カルストンライトオが逃げ切りを決めたG1もスプリンターズSでした。
過去5年以内のアイビスサマーダッシュで、Seeking the Goldの血を引く3着以内の馬は、オールアットワンス、ビリーバー、ライオンボスの3頭。
今はSeeking the Goldを例にあげましたが、Seeking the Goldでなければならないわけではなく、わかりやすさから例としました。
つまりここまで探ってきた血統は、スプリントで躍動する共通点といっていいかもしれません。
フォーティナイナーの強み
ほかでは例えば、ダノンヨーヨーもフォーティナイナーの影響が強い走りだったそうで、望田潤さんのブログでは2010年の富士Sを例にあげていましたが、たしかにラスト400から200すぎの区間はものすごい加速で駆け抜けています。
つまりこのぐんぐんと太く短くパワーを出し切るのがフォーティナイナー(母父Tom Rolfe)最大の強み。
フォーティナイナー自身はNasrullah4×4ですが、母父Tom Rolfeの母PocahontasがBuchan3×5
Buchanは父父Sundridgeですから、Tom Rolfe―フォーティナイナーの爆発的なダッシュ力に強く影響を及ぼしていると考えられます。
前回の記事と合わせて考えます
前回の記事では
スプリントで強力な血というのは、Mr. Prospector・Nijinsky・Buckpasser・Secretariat。このあたりになるでしょう。
と、書きました。
Nijinskyの母Flaming Pageは、Bull Dog≒Sir GallahadとUltimus(―Commando―Domino)とBlue Larkspur(Domino・Sundridge)の組み合わせですから、ここもRomanの血をおさえることにつながります。
同じくBuckpasserもFlaming Pageと共通した血が多いため、Buckpasser≒Flaming Page(Menow・Bull Dog=Sir Gallahad・Blue Larkspur・Man o' War)
では、Mr. ProspectorとSecretariatはどうなのか。
Mr. Prospectorは、さきほどBramalea≒※Gold Diggerで書いたので、Secretariatをみていきます。
Secretariatの母母父CarusoはSundridgeとDominoの血を含んでおり、父Bold Rulerの母母Outdoneとは、Polymelus・Sundridge(Amphion・Springfield)・Disguise(Domino)・Isinglass(Isonomy)・Plebeian・Galopin・Bend Orなどが共通しており、Secretariat自身は5代血統表にクロスをもちませんが、この場合はOutdone≒Caruso3×3としてもよいかもしれません。
そして、Nasrullahの3代母Lady Josephine
父は何度も出てきているSundridgeですが、ポイントは母父AmericusのNorfolk=The Nun全きょうだいクロス2×2です
このLexingtonとGlencoeの組み合わせはDominoに似ています
Dominoは、父父AlarmのラインだけLexingtonをもたず(1/4異系)、3/4Lexingtonで成り立っていると解釈ができます
Dominoの母母Lizzie G.をみてみると
War Dance≒Lecomte1×2、Reel≒Judith2×3・3
Lexington(―Boston)とGlencoeを代々重ねてきていることが読み取れます
話をLady Josephineに戻すと、つまりLady JosephineのスピードというのはSundridgeとDominoの掛け合わせと考えることができます
すべてを合わせると、Secretariatが伝えるスプリントのはやさは、CarusoとOutdoneとLady Josephine
どの血も直系ではなく母方に回ってそのスピード感を伝えるのは、前回少しだけ触れたように母系でのみ受け継がれるとされるミトコンドリアDNAが理由でしょう。
ニアリークロスや全きょうだいクロスなどの近親交配が大きな意味をもつのは、違う仔を通じて母の遺伝子がまた巡り合うからといえます
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今回のキーとなった馬たち
Roman
Romanの父はSir Gallahadでその代表産駒といえば史上2頭目の米国三冠馬といわれるGallant Foxですが、種牡馬として後世に与えた影響はここまで書いてきたように、Romanも影響力が強いといえるでしょう。
がっしりとした体格、太い胴と筋肉のついた尻で、前脚が少し外方向へ曲がっていたことが馬体としての特徴で体格はしっかりスプリンター。
レースも40戦ほど走り、8Fまで走っていたそうですが最も走れたのは6Fでした。
SundridgeとMan o'Warの母父Rock Sand
Sundridgeの母SierraはRock Sandの父Sainfoinと全きょうだいです。
Sundridgeの父AmphionとRock Sandの母Roquebruneを見比べると、Vedette・Hermit・Rataplan=Stockwell≒King Tomなどが共通しており、Suicide≒St. Margueriteとみることができます。
この時代の血統構成なので、同じ種牡馬や母馬がいくつも重なるのは珍しくありませんが、当時実績があった優秀な馬同士(血統)が、父×母という直接的な配合だけでなく、違う仔が巡って掛け合わさることは、直接的なインブリードよりも価値があるとみたいですね